私はまだ飛行機に乗ったことがありません。
美しい飛行機雲を地上からただ眺めているだけです。
あのまっすぐに伸びる光の中に沢山の人間が乗っている…。
この事実を、実は未だに信じられません。
57年間こんな思いとともに生きてきました。
それはそれは苦しくて狭い世界の住人でした。
娘夫婦が建てた新居の上空には、夕日に照らされた無数の飛行機がひっきりなしに飛んでいました。
飛行機雲たちは、間違いなく、私をこんな風に祝福してくれていました。
「もう飛行機怖がるのをやめて…」
「大空高く飛び立っていいんだよ」
キラキラ輝く美しい飛行機雲たちは北に南にそれはそれは自由に飛び交っていました。
あの美しく金色に輝く飛行機雲を思い出しては胸がぎゅーっとなります。
私の根底にある恐怖、そして開放が、
これでもか…ってくらい楽しそうに
どこまでも伸びていった飛行機雲たちに投影されていました。